今日もパリの街角で

数枚の写真とともに パリの日々刻々をご一緒に

今日のセーヌと建築家

 

これ

セーヌの川面を毎日走り回っている

あるいは

住居用に転用されて河岸に接岸されている

パリではおなじみの

平底運搬船「ペニッシュ」の船首の写真ですが。

 

何か気がつかれる事は

ありますでしょうか?

 

 

実はこのペニッシュ

なんと

「鉄筋コンクリート」製なのですよ!

 

長さ70m超という

そこそこのサイズの運搬船です。

 

建造は1925年ですが

心当たりは?

 

つまり

第1次世界大戦の真っ只中。

 

それまで

国王や皇帝が開戦を決定し

国家の陸海軍の要職にあった有力貴族たちが

自分の役職に応じた軍備を整えて参戦する

という戦争から

人類史上それまでの戦争の概念を根底から変えてしまう

大規模で全国民を巻き込む

国を挙げての総力戦。

 

成人男性のほとんどは戦地に送られ

航空機や

戦車や

毒ガス

などというそれまでにはなかった現代兵器が登場し

4年間血みどろの戦いの挙句

国は疲弊し

国内の物資は払底してしまった。

 

そんな折に

日常の生活物資を

首都パリまで川船で運搬する為のペニッシュは

生活に不可欠だったにもかかわらず

兵器生産に当てられた鋼鉄が

民生用には回ってこなかったために

なんと

鉄筋コンクリートで作ってしまった。

 

そんな時代だったのです。

 

 

この運搬船は

「リエージュ号」と名付けられ

ルーアンからパリまで石炭を運ぶために

5年間就航し

その後

「フランス救世軍」に売却されました。

 

すでにパリ市内に

大規模なホームレス収容施設を建設していた救世軍は

その船を宿泊施設に改造する事にして

なんと

収容施設を設計した建築家

『ル・コルビュジエ』

に改装工事を依頼したのです。

 

その結果

ホームレスを厳冬期に収容する

「Asile Flottant (水上宿泊所)」

『ペニッシュ・ルイーズ・カトリーヌ号』として

パリ市民も利用できた大食堂と160床のベッドを持ち

活躍しました。

 

1980年まで利用されていましたが

老朽化の為にある財団に売却。

 

その後曲折があって放置され

2008年にパリ市歴史的記念物に指定されて

何度か大改装の工事が決められたものの難航し

2018年大雨のため沈没。

 

2020年に日本の

「建築デザイン協会」が購入し

船体が幾つかに折れた状態の船の引き上げ工事を行い

ボロボロだったものを

その後地道に修復工事を行っている...のが現状です。

 



舷側中央部にタラップがあります。

 


この角度で見ると

岸壁と見間違えてしまうほど

全くコンクリートそのものの質感ですね。

 

宿泊施設当時は

しっかりと着色されて

普通に船でした。

 

 

最後に

往年の姿を挙げておきます。

 

Péniche Louise-Catherine  写真 : @Fondation Le Corbusier / Adagp

1929年の勇姿です。